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最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)134号 判決 1991年9月26日

東京都文京区本郷三丁目二七番一二号

上告人

オカモト株式会社

右代表者代表取締役

岡本多計彦

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

對﨑俊一

増岡研介

同 弁理士

早川政名

大阪府泉大津市河原町九番一号

被上告人

オーツタイヤ株式会社

右代表者代表取締役

南平正弘

右訴訟代理人弁護士

宇津呂雄章

今西康訓

同 弁理士

安田敏雄

中野収二

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行ケ)第二七二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年三月七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人増岡章三、同對﨑俊一、同増岡研介、同早川政名の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治)

(平成三年(行ツ)第一三四号 上告人 オカモト株式会社)

上告代理人増岡章三、同對﨑俊一、同増岡研介、同早川政名の上告理由

一 原判決は、上告人の有する特許第一二三九一六〇号発明の特許権につき、被上告人が請求した昭和六三年審判第一〇一二八号無効審判事件において「本件審判請求は成り立たない」との特許庁審決を取消したものであるが、以下のとおり判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背及び理由不備の違法があるから、破棄されるべきものである。

二 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背

1 原判決は、特許法第二九条第二項の解釈を誤ったことにより同項に違背するものである。

(一) 原判決は、本件発明の構成と第六引用例記載の発明の構成との異同を対比し、両者の間に「凹溝のプレス型表面における形状が本件発明では斜交差状の網目形状であるのに対して、第六引用例記載の発明では縦縞形状である点」(三七丁裏)で相違があると認定し、しかしながら、この構成上の相違点はタイヤ滑止具の形状の相違に対応起因するところ、網目形状のタイヤ滑止具は第二、第三及び第五引用例により周知であり、しかも、この周知のタイヤ滑止具の「構成材料」は第六引用例記載の発明と同一であるから、前記構成上の相違点は克服され、「第六引用例記載の発明に右周知のタイヤ滑止具の製造方法を適用し、本件発明の構成とすることは当業者に容易に推考し得た」(原判決書39丁裏)のであると判示し、ひいては、本件発明が、第六引用例記載の発明に第二、第三引用例及び第五引用例に記載された周知技術を適用することにより当業者が容易に推考できたものであって、特許法第二九条第二項に定められた要件を充していないと結論づけている.

(二) しかし、このような原判決は、先づ何よりも、製造方法の技術に関する発明に、製造方法のいかんについて示唆すら存在しない引用例を適用している点において全く失当である。

すなわち、第二、第三及び第五引用例は、原判決も認定するとおり、いずれもタイヤ滑止具の構造に関する発明を記載するものであるが、これらには製造方法のいかんは全くふれられていない。このような引用例をもって、本件発明と第六引用例記載の発明との間の製造技術に関する前記構成上の相違は克服され得べくもないこと、それこそ周知の議論である。原判決によれば、この点は「構成材料」が同一であるから当業者にとって容易推考の範囲内にあるとするのであるが、いわゆる物の発明の構成材料はあくまでもその範囲内のものであって、方法の発明の構成とは質を異にしている。原判決には、特許法について根本的な誤解があるとしか考えられない。

製造方法の技術として見る場合、プレス型表面の凹溝の形状の相違は製造しようとするタイヤ滑止具の形状に対応起因するものであっても、だからと言って、タイヤ滑止具の形状から直ちにその製造方法としてプレス型を用いることに結びつく訳ではない。製造方法としてプレス型を用いようという発想が先づ在ってこそ、製造されるタイヤ滑止具の形状に対応させるプレス型の表面形状が適宜選択されるのである。果してプレス成型により製造するものか、それとも全く異なる方法により製造するものか、とにかくいかにして製造するものかが何ら記載も示唆もされていない第二、第三及び第五引用例があろうと、これらの引用例に記載されたタイヤ滑止具の形状とプレス型表面の形状とは無関係である。原判決には、論理構成上基本的な誤りがあると言わざるを得ない。

さらに、原判決は、いわゆる進歩性の判断についての結論部分として「第六引用例の発明に右周知のタイヤ滑止具の製造方法を適用し、本件発明の構成とすることは当業者に容易に推考し得たというべきであり」(原判決書39丁裏)と述べているが、ここで言う「右周知のタイヤ滑止具の製造方法」とは、第二、第三及び第五引用例のことを指すとしか考えられないところ、これらの引用例にそのような記載が全くないことは原判決が外の箇所で明らかに認定しているのであるから、右の結論部分はそれこそ原判決の重大な欠陥を象徴的に示しているということになる。

(三) 以上に指摘した点は、発明のいわゆる進歩性のいかんに関する問題であり、特許法第二九条第二項に定められている事項であるから、結局のところ原判決の誤りは、同項の解釈適用の誤りであると言うに帰着する。

2 右のとおり原判決は特許法第二九条第二項に違背しているが、この違背は、原判決の根幹にかかわるものであるから判決に影響を及ぼすことは多言を要さずとも明らかである。

三 理由不備

前項(二)に指摘した原判決の誤りは、実質的にみた場合、原判決に理由不備の違法があることを示しており、原判決は、この点からも破棄を免れないと言うべきである。

以上

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